いずれ破棄される記録

いずれ破棄される記録

救われる価値と救われる資格の違いって何だと思う?

 

可哀いあの子が羨ましい。 

さらさらの黒髪。傷一つないお顔。どんな時でも味方してくれる王子様がトラウマの海から引き上げてくれる、王道で美しい人生。

なんであの子には王子様がいるんだろうね。可愛いからかな。 


可愛いあの子が羨ましい。

すべすべのお肌。いくらお餅を食べても太らない体。クレイジーだけど自分には優しい人と恋をする、刺激的で楽しい人生。

なんであの子は力が無くても好かれるんだろうね。可愛いからかな。


可愛いあの子が羨ましい。

形の整った手。すらりとした綺麗な脚。自分を慕ってくれる初心な子と青春を送る、爽快で甘ったるい人生。

なんであの子は強いのに怖がられないんだろうね。可愛いからかな。


可哀いあの子が羨ましい。

もっふもふの尻尾。珍しくて綺麗な目。自分が好きになった人に自分の全てを受け入れてもらえる、満ち足りて救われた人生。

なんであの子は受け入れてもらえるんだろうね。可愛いからかな。



ほんとは違うって、分かってんだろ?


虚しいわたしはもういらない。




鏡の前に立つ。

やけどで開かなくなった右目。人差し指から小指までが全部癒着した指。隣に立ってくれる人なんて誰もいない、空虚でつまらない人生。

術式はない。呪力も少ない。体も強くない。顔も元から良くない。頭だって回らない。性格はお察しの通りだ。

他人に与えられる物なんて何もない。救われる資格なんて持っていない。


可哀そうで可愛いあの子たちが羨ましくて仕方ない。哀れで醜いわたしとは似ても似つかない。

物語みたいなハッピーエンドが眩しくて、めまいがした。

ずるいなあ。


でもね、今がエンディングなんて決まってるわけじゃない。だからせめて、この呪いが渦巻く世界らしく、惨たらしくて見ていられないような終わりであってほしいな。しあわせになんか、なっちゃだめだよ。









20■■/12/25

東京都世田谷区■■のアパートの一室で自殺した××三級術師が三級呪霊に変化。

■■三級術師を派遣。任務は無事に遂行された。

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